前回書いた記事では、代物弁済による資産の譲渡を行った場合の具体的な仕訳例について解説しました。
今回は、前回の内容の応用編として、代物弁済により譲渡する資産の時価が債務の額と異なる場合の課税関係について、法人税や所得税との関連も踏まえながら考えてみたいと思います。
仕訳や課税関係は債権者が誰であるかにより異なる
代物弁済による資産の譲渡を行った場合の仕訳や課税関係は、債権者が誰であるかにより異ります。
具体的には、次の3パターンに場合分けできます。
完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する一定の関係又は一の者との間にその一定の関係がある法人相互の関係をいい、要するに「当社の発行済株式の100%を保有している親会社」または「当社が発行済株式の100%を保有している子会社」のことをいいます。
これを踏まえて、それぞれのパターンの仕訳例と課税関係について考えてみましょう。
なお、今回の記事では、債権者が法人である場合(上記の①と②)について解説します。
個人相手に代物弁済により資産を譲渡した場合の取り扱いについては、次の記事で解説しています。
仕訳は8パターンに分けられる
代物弁済により譲渡する資産の時価と債務の額が異なる場合は、「債務額が時価より高いか低いか」、「時価と債務額の差額について金銭の授受があるか」、「法人による完全支配関係の有無」により仕訳のパターンを分けて考えることができます。
時価と債務額の差額について金銭の授受があるか | 債務額が時価より高いか低いか | 法人による完全支配関係の有無 |
あり | 高い | あり |
なし | 低い | なし |
それぞれの組み合わせると、2×2×2=8パターンの仕訳が考えられます。
消費税法上の資産の譲渡対価は「消滅する債務の額」
消費税法上は、代物弁済による資産の譲渡に係る対価の額は、代物弁済により消滅する債務の額とされているため、時価や簿価にかかわらず消滅する債務の額が資産の譲渡等の対価の額となります。
ただし、債務の額と時価の差額について金銭の授受がある場合は、当該金額を加減算した金額が資産の譲渡等の対価の額となります。
法人税法上は資産の売却、取得は時価により行ったと考える
法人税法上は、その資産の取得のために通常要する価額(時価)により売却したと考えるため、時価と簿価の差額が固定資産売却損益となり、時価と債務額の差額は「寄附金」又は「受贈益」となります。(仕訳上「債権放棄損」や「債務免除益」などの勘定科目を用いることもありますが、法人税法上の取り扱いは「寄附金」、「受贈益」として考えることになります。)
また、法人税法上、固定資産は時価による取得価額をもとに減価償却を行うため、資産を譲り受ける側は固定資産が時価で計上されるように仕訳を行います。なお、税抜経理方式を採用している場合は消費税等相当額を控除した金額が固定資産の取得価額となります。
法人による完全支配関係がある場合
法人による完全支配関係がある場合は「グループ法人税制」の適用を受け、寄附金については損金不算入、受贈益については益金不算入となります。
また、法人による完全支配関係を有する法人間で、以下の資産のうち譲渡直前の帳簿価額(税務上の帳簿価額)が1,000万円以上であるもの(譲渡損益調整資産)を譲渡した場合は、当該 譲渡損益調整資産に係る譲渡損益については課税の繰り延べを行います。
② 土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
③ 有価証券(売買目的有価証券を除く)
④ 金銭債権
⑤ 繰延資産
これらの資産に係る売却損益は、売却時は益金不算入又は損金不算入とし、譲受法人において下記の事由が生じた場合に、繰り延べた金額の全部又は一部を益金算入又は損金算入することになります。
② 当該内国法人と当該譲受法人との間に完全支配関係を有しないこととなった場合
③ 連結納税制度の適用開始、連結納税グループへの加入に際し譲渡法人が時価評価の適用対象となる場合
また、グループ法人間で寄附が行われた場合、寄附をした法人の純資産価額は減少し、寄附を受けた法人の株式価値は増加するため、意図的に株式譲渡損益を調整することを防止するために、完全支配親法人(親会社)において子会社株式の帳簿価額の修正を行う必要があります。
債務額>時価、金銭授受なし、完全支配関係なしの場合
A社の仕訳と課税関係
消費税法上、代物弁済による資産の譲渡があった場合の資産の譲渡等の対価の額は「代物弁済により消滅する債務の額」なので7,000万円が課税売上げとなります。
仕訳上は、時価と簿価の差額1,000万円が「建物売却益」となり、債務額と時価の差額1,000万円が「債務免除益」となります。
法人税法上は、建物売却益と債務免除益の合計2,000万円が益金の額に算入されます。
B社の仕訳と課税関係
B社において課税仕入れとなる金額は「代物弁済により消滅する債務の額」7,000万円です。
ただし、固定資産はその資産の取得のために通常要する価額(時価)をもとに減価償却するため、時価6,000万円を「建物」として計上し、差額の1,000万円は「債権放棄損」として計上します。
法人税法上、債権放棄損は「寄附金」に該当し、寄附金の損金算入限度額の調整を受けるため、損金算入限度超過額は損金不算入となります。
債務額>時価、金銭授受あり、完全支配関係なしの場合
A社の仕訳と課税関係
消費税法上、債務額と時価の差額を現金で支払っている場合は、債務額から現金で支払った金額を差し引いた残額について代物弁済を行ったものと考えます。
代物弁済による資産の譲渡があった場合の資産の譲渡等の対価の額は「代物弁済により消滅する債務の額」なので、6,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上は、「建物売却益」1,000万円が益金の額に算入されます。
B社の仕訳と課税関係
債務額から現金により支払いを受けた金額を差し引いた残額6,000万円が建物の取得に係る課税仕入れの金額となります。
法人税法上は、益金の額も損金の額も発生しないため、課税関係は生じません。
債務額>時価、金銭授受なし、完全支配関係ありの場合
A社の仕訳と課税関係
A社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に7,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上、法人による完全支配関係を有する法人間で簿価1,000万円以上の建物を譲渡した場合は、その建物は譲渡損益調整資産となるため、「建物売却益」は益金不算入となり、B社において償却、売却、除却など一定の事実が生じた場合に加算認容します。
また、法人による完全支配関係を有する法人間で生じた債務免除益(受贈益)については益金不算入とされます。
B社の仕訳と課税関係
B社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に7,000万円が課税仕入れとなります。
法人税法上は、法人による完全支配関係を有する法人間で生じた債権放棄損(寄附金)については損金不算入とされます。
寄附修正
グループ法人間で寄附が行われた場合、完全支配親法人(親会社)において子会社株式の帳簿価額の修正を行う必要があります。
A社が親会社である場合は、B社株式の帳簿価額を減額し、利益積立金額を減額します。
B社が親会社である場合は、A社株式の帳簿価額を増額し、利益積立金額を増額します。
債務額>時価、金銭授受あり、完全支配関係ありの場合
A社の仕訳と課税関係
消費税法上、債務額と時価の差額を現金で支払っている場合は、支配関係なしの場合と同様に、債務額から現金で支払った金額を差し引いた残額について代物弁済を行ったものと考えます。
代物弁済による資産の譲渡があった場合の資産の譲渡等の対価の額は「代物弁済により消滅する債務の額」なので、6,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上、法人による完全支配関係を有する法人間で簿価1,000万円以上の建物を譲渡した場合は、その建物は譲渡損益調整資産となるため、「建物売却益」は益金不算入となり、B社において償却、売却、除却など一定の事実が生じた場合に加算認容します。
B社の仕訳と課税関係
B社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に6,000万円が課税仕入れとなります。
法人税法上は、益金の額も損金の額も発生しないため、課税関係は生じません。
寄附修正
時価と債務額の差額について現金の授受がある場合は、グループ法人間において寄附は行われていないことになるため、寄附修正は必要ありません。
債務額<時価、金銭授受なし、完全支配関係なしの場合
A社の仕訳と課税関係
消費税法上、代物弁済による資産の譲渡があった場合の資産の譲渡等の対価の額は「代物弁済により消滅する債務の額」なので4,000万円が課税売上げとなります。
簿価と時価の差額1,000万円は「建物売却益」となり、債務額と時価との差額2,000万円が「寄附金」となります。
法人税法上は、「建物売却益」は益金の額に算入され、「寄附金」は寄附金の損金算入限度額の調整を受けるため、損金算入限度超過額は損金不算入となります。
B社の仕訳と課税関係
B社において課税仕入れとなる金額は「代物弁済により消滅する債務の額」4,000万円です。
ただし、固定資産はその資産の取得のために通常要する価額(時価)をもとに減価償却するために時価6,000万円を「建物」として計上します。
「建物」のうち債務額4,000万円は課税仕入れとなり、債務額を超える金額2,000万円は不課税仕入れとなります。
また、債務額を超える金額2,000万円について「受贈益」を不課税売上げとして計上します。
法人税法上は、「受贈益」が益金の額に算入されます。
債務額<時価、金銭授受あり、完全支配関係なしの場合
A社の仕訳と課税関係
消費税法上、債務額に現金により収受した金額を加算した金額が資産の譲渡等の対価の額となるため、6,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上は、「建物売却益」1,000万円が益金の額に算入されます。
B社の仕訳と課税関係
債務額に現金により収受した金額を加算した金額6,000万円が建物の取得に係る課税仕入れの金額となります。
法人税法上は、益金の額も損金の額も発生しないため、課税関係は生じません。
債務額<時価、金銭授受なし、完全支配関係ありの場合
A社の仕訳と課税関係
A社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に4,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上、法人による完全支配関係を有する法人間で簿価1,000万円以上の建物を譲渡した場合は、その建物は譲渡損益調整資産となるため、「建物売却益」は益金不算入となり、B社において償却、売却、除却など一定の事実が生じた場合に加算認容します。
また、法人による完全支配関係を有する法人間で生じた寄附金については損金不算入とされます。
B社の仕訳と課税関係
B社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に4,000万円が課税仕入れとなります。
法人税法上は、法人による完全支配関係を有する法人間で生じた受贈益については益金不算入とされます。
寄附修正
グループ法人間で寄附が行われた場合、完全支配親法人(親会社)において子会社株式の帳簿価額の修正を行う必要があります。
A社が親会社である場合は、B社株式の帳簿価額を増額し、利益積立金額を増額します。
B社が親会社である場合は、A社株式の帳簿価額を減額し、利益積立金額を減額します。
債務額<時価、金銭授受あり、完全支配関係ありの場合
A社の仕訳と課税関係
A社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に4,000万円が課税売上げとなります。
法人税法上、法人による完全支配関係を有する法人間で簿価1,000万円以上の建物を譲渡した場合は、その建物は譲渡損益調整資産となるため、「建物売却益」は益金不算入となり、B社において償却、売却、除却など一定の事実が生じた場合に加算認容します。
B社の仕訳と課税関係
B社の消費税の取扱いは、完全支配関係なしの場合と同様に4,000万円が課税仕入れとなります。
法人税法上は、益金の額も損金の額も発生しないため、課税関係は生じません。
寄附修正
時価と債務額の差額について現金の授受がある場合は、グループ法人間において寄附は行われていないことになるため、寄附修正は必要ありません。