近年、山林の売買取引が増えていると言われています。
この背景には、相続等により山林の所有権を承継したものの、伐採や間引きなどにかかる維持費用や固定資産税の負担が大きいために早く手放したいという人が増加していることが挙げられます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により屋外での「3密」の状況とならないレジャーへの関心が高まったという需要変化や、「ゆるキャン△」などの人気コミックを火付け役とするアウトドア・キャンプブームの隆盛などの影響で、個人がアウトドアレジャーを楽しむために山林を購入するという事例も増えています。
このように、山林の売買取引が増加している中で、山林の売り主にとっては「山林の譲渡は消費税の課税対象となるのだろうか?」と疑問に感じる場面も多いかと思います。
今回は、山林を譲渡した場合に消費税の課税対象取引となるかどうかの考え方について解説したいと思います。
課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
法人が行う取引はすべて「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすこととされているため、法人が会社名義で所有する山林を売却した場合はすべて課税対象取引となります。
一方、個人が山林を売却した場合は、「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすかどうかはケースバイケースです。
ここで、消費税法における「事業として」の意義については、消費税法基本通達5-1-1において以下のように規定されています。
(事業としての意義)
5-1-1 法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。
したがって、個人が山林の譲渡を行う場合に消費税の課税対象となるかどうかは、次の場合でそれぞれ異なります。
① プライベートのためにその山林を所有していた場合
山林を譲渡した場合に消費税の課税対象となるのは、その山林を用いて反復・継続・独立して製品の販売やサービスの提供を行っていた場合に限られます。
そのため、プライベート用に趣味のアウトドア・レジャーを楽しむためなどの目的で所有していた山林は「生活用資産」に該当し、その山林を譲渡した場合は消費税の課税対象となりません。
消費税の課税対象外(不課税取引)となる山林の譲渡の具体例としては、次のようなものがあります。
② 継続して収益を得る目的でその山林を所有していた場合
山林を用いて継続的に収益を得るため、または、山林そのものを継続的に売却したり貸し付けたりするために所有していた場合は、その山林は「事業用資産」に該当し、その山林の譲渡は「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすため、消費税の課税対象取引となります。
消費税の課税対象取引となる山林の譲渡の具体例としては、次のようなものがあります。
山林の譲渡が消費税の課税対象取引に該当する場合は、山林の譲渡対価うち土地部分の譲渡対価に相当する金額は非課税売上げ、立木部分の譲渡対価に相当する金額は課税売上げとなります。
(参考)数十年に一度の立木の譲渡は「事業として」に該当するのか
消費税法上「事業として」に該当するのは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われる場合をいいます。
では、山林の立木の譲渡が数十年に一度のみ行われる場合は、「反復、継続、独立」して行われているといえるのでしょうか?
この点について、国税不服審判所の平成15年12月17日公表裁決事例で、次のような審判が下されました。
約40年に1度行われた立木の譲渡であっても、山林の反復、継続的な育成、管理が行われていた場合には、事業として対価を得て行われる資産の譲渡に該当するとした事例
▼ 裁決事例集 No.66 - 309頁請求人は、「事業として行う資産の譲渡」というには、反復、継続が必須であるところ、約40年間立木の譲渡はなく今回初めて譲渡したものであって反復、継続していないこと、今回譲渡した立木は、当初3年程下草刈りをした後、10年後くらいに1回間伐しただけであり、以後27年間程度は何の手入れもしていないなど十分な育成、管理を行っていないことから、反復、継続の蓋然性があるともいえないこと、森林施業計画に係る森林の伐採の届出書は、育成、管理したことを証明するものではなく、森林施業計画の認定を受けたカラマツを伐採、譲渡したことをもって、反復、継続的に育成、管理していたとはいえないことから、本件立木の譲渡は課税資産の譲渡に該当しない旨主張する。
しかしながら、山林の育成には長期間を要するのが通例であることから、山林の伐採又は譲渡が消費税法第2条第1項第8号の「事業として」に該当するかどうかは、伐採又は譲渡の反復性、継続性のみにより判断するのではなく、伐採又は譲渡の準備行為ともいえる山林の育成、管理の度合いも加味して総合的に判断すべきものと解されるところ、請求人は、森林法第11条第1項に規定する森林施業計画を定期的に作成し市町村の長にその認定を求めていること、P市長に対し「立木の伐採(譲渡)証明申請書」を提出し、本件譲渡が森林施業計画に基づくものであるとの証明を受けていること及びT広域森林組合のJ総務部長の「請求人が今回譲渡した立木は成長も悪くなく、手入れをしていたということは、はっきり分かった」との申述からすれば、本件立木の譲渡は、森林施業計画に基づき反復、継続的な育成、管理が行われていたと認めるのが相当である。
以上のとおり、本件立木の譲渡は消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として対価を得て行われる資産の譲渡」に該当するとした本件更正処分は適法である。
したがって、植林を行い、伐採、譲渡を行うことを予定して育成・管理を行っていた山林を伐採、譲渡した場合には、たとえその者における伐採、譲渡が数十年に1回しか行われない場合であっても、事業として行う資産の譲渡に該当することとなります。
このような数十年に一度立木を伐採・譲渡する目的で所有していた山林を譲渡した場合は、事業付随行為として消費税の課税対象取引となります。
これに対し、はじめから植林の伐採・譲渡を行うことを目的としていない山林を譲渡した場合は、たとえ年に1、2回程度下草刈り等を行っていたとしても、伐採、譲渡を行うことを予定して育成・管理を行っているものではないため、事業として行う資産の譲渡には該当しないこととなります。
すでに事業の用に供していない山林の譲渡は不課税取引
継続して収益を得る目的でその山林を所有していた場合であっても、売却時点で既に事業の用に供していない遊休資産となっている場合は消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
ただし、売却する直前までは事業の用に供していたものの、売却することが決まった後で稼働停止させ遊休資産にした場合は「事業として」に該当し、消費税の課税対象となることに注意しましょう。
(参考:国税不服審判所平成23年3月8日裁決)
何のために譲渡するか・誰に譲渡するかは関係ない
山林の譲渡が消費税の課税対象取引となるかどうかは、その山林が生活用資産なのか事業用資産なのかという点のみに着目して判断を行います。
「何のために譲渡するか」「誰に譲渡するか」は、関係ありません。
この点については、詳しくは次の記事で解説しています。
土地収用法等の規定に基づいて譲渡する場合も課税対象となる
国や地方団体に対し、高速道路を通すためなどの目的により、土地収用法の規定に基づいて山林を譲渡した場合も、資産の譲渡等に類する行為として課税対象取引となります。
この場合、対価補償金部分にかかる金額が課税対象取引となります。
土地収用法 の規定に基づいて収受した補助金の対価性の判断は、詳しくは次の記事をご覧ください。
課税対象となる場合、立木部分は課税売上げ、土地部分は非課税売上げ
山林を譲渡する場合には、立木も一緒に引き渡されることがありますが、通常、立木は伐採して木材等として使用されるため、土地とは独立して取引の対象となります。
したがって、山林の譲渡が課税対象となる場合、立木部分については、非課税とされる「土地」の範囲に含まれないため、立木の譲渡対価は課税売上げとなります。
また、山林の上の小屋などの建物やその付属施設についても、土地とは独立して取引対象となるため非課税とされる「土地」の範囲には含まれません。
まとめ
法人が会社名義で所有する山林を譲渡した場合は、全て消費税の課税対象取引となります。
一方、個人事業者が山林を譲渡した場合は、それが生活用資産なのか事業用資産なのかにより消費税の課税関係は異なります。
個人事業者が、別荘やキャンプ地として個人的に楽しむために所有していた山林を譲渡した場合は生活用資産の譲渡として課税対象外(不課税取引)となりますが、山林を用いて継続的に収益を得るため、または、山林そのものを継続的に売却したり貸し付けたりするために所有していた場合は、その山林の譲渡は事業用資産の譲渡として課税対象取引となります。
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