所得税の計算において対価補償金として取り扱う収用に係る補償金

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

国や県が行う道路の拡張や都市計画事業などの公共事業のために、土地収用法等の規定に基づいて所有する土地や建物が収用されることがあります。

今回は、所得税の計算において対価補償金として取り扱うことができることとされている収益補償金・移転補償金・経費補償金に係る消費税法上の取扱いについて解説したいと思います。

 

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対価補償金のみ資産の譲渡等の対価となる

土地収用法等の規定により所有する土地を収用された場合は、国や地方自治体から次の補償金を収受することになります。

収用により収受する補償金
対価補償金:収用された資産の対価となる補償金
収益補償金:収用に伴う収益の減少を補てんするために交付される補償金
移転補償金:移転に要する費用を補てんするために交付される補償金
経費補償金:収用に伴い生ずる事業上の費用や収用された資産以外の資産の損失を補てんするために交付される補償金

消費税法上、課税の対象となるのは対価補償金を受け取った場合のみで、収益補償金・移転補償金・経費補償金の受け取りについては不課税取引となります。

この点については、詳しくは次の記事で解説しています。

また、土地の収用に伴う借地権の消滅に係る補償金の受け取りについての消費税の取扱いは、次の記事で詳しく解説しています。

 

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所得税では、収益補償金・移転補償金・経費補償金でも、一定の場合には対価補償金として取り扱うことができる

個人が上記の補償金を受け取った場合には、各所得の金額の計算上、収入金額に算入されます。

ただし、その収用された資産が棚卸資産その他これに準ずる資産でない場合には、対価補償金について以下のような特例があります。

① 収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
 収用により交付を受けた対価補償金で同種の資産に買い替えた場合において、その代替資産の取得が収用等のあたりから2年以内に行われるなど、一定の要件を満たすときは、対価補償金の額が代替資産の取得価額以下である場合には、その収用等による譲渡はなかったものとされ、対価補償金の額が代替資産の取得価額を超える場合にはその超える部分の金額を収入金額として譲渡所得
② 収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除
 買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに譲渡するなど、一定の要件を満たす場合には、上記⑴の特例を受ける場合を除き、最高 5,000万円までの特別控除を適用して譲渡所得又は山林所得の金額の計算をすることができます。

①はあくまでも課税の繰り延べですが、②は実質的に非課税となるため翌年以後の所得金額の計算に影響はありません。

これらの特例は、対価補償金についてのみ適用されるものですが、収益補償金・移転補償金・経費補償金についても、以下に示す場合には、対価補償金として取扱い上記①又は②の特例の適用を受けることができます。

収益補償金

収益補償金は、その交付の基因となった事業の態様に応じて、不動産所得の金額、事業所得の金額または雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入されます。

ただし、建物の収用等を受けた場合において、建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、その満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。

経費補償金

休廃業等により生ずる事業上の費用の補填に充てるものとして交付を受ける経費補償金は、その交付の基因となった事業の態様に応じて、不動産所得の金額、事業所得の金額または雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入されます。

また、収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(棚卸資産等を除く。)について実現した損失の補填に充てるものとして交付を受ける経費補償金は、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入されます。

ただし、事業を廃止する場合等でその事業の機械装置等を他に転用できないときに交付を受ける経費補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。

移転補償金

移転補償金をその交付の目的に従って支出した場合は、その支出した額については総収入金額に算入しないこととされています。なお、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額を除きます。

ただし、建物等を引き家又は移築するための補償金を受けた場合で実際にはその建物等を取り壊したとき及び移設困難な機械装置の補償金を受けたときは、対価補償金として取り扱うことができます。

また、借家補償金は、対価補償金とみなして取り扱うこととされています。

(参考)法人税にも同様の取り扱いあり

法人税においても、上記と同様に収益補償金・移転補償金・経費補償金について、対価補償金として取り扱う通達があります。

参考:国税庁-法令解釈通達『補償金の範囲等』

 

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対価補償金として取り扱う収益補償金・移転補償金・経費補償金の消費税の区分

上記の特例の適用を受けるために、対価補償金として取り扱われる収益補償金・移転補償金・経費補償金についても、消費税において課税の対象に含まれるのでしょうか?

消費税法施行令第2条第2項では、収用等があった場合の取扱いについて次のように規定しています。

2 事業者が、土地収用法その他の法律の規定に基づいてその所有権その他の権利を収用され、かつ、当該権利を取得する者から当該権利の消滅に係る補償金を取得した場合には、対価を得て資産の譲渡を行つたものとする。

この規定は、消費税における課税対象の範囲を定める範囲であり、消費税法施行令第2条第2項に規定する「補償金」とは、収用の目的となった資産の所有権等の権利を取得する者から、原権利者の権利が収用等に伴い消滅することに対する対価として支払われる補償金(対価補償金)に限定されることになります。

租税法律主義における課税要件法定主義の観点から消費税における課税対象範囲を厳格に解釈をすると、所得税や法人税の規定において収益補償金・移転補償金・経費補償金についても対価補償金として取り扱うことにより課税の特例を認めることとする解釈通達があったとしても、消費税の課税対象範囲を画することについての影響を及ぼすものではありません。

したがって、所得税や法人税の計算上、対価補償金として取り扱うこととされる収益補償金・移転補償金・経費補償金については、消費税の計算においては課税対象外(不課税取引)となります。

 

まとめ

収用があった場合に交付を受ける各種補償金のうち、消費税の計算において課税対象となるのは対価補償金のみです。

収益補償金・移転補償金・経費補償金については、所得税や法人税の計算において対価補償金として取り扱われたとしても、消費税の計算においては課税対象外(不課税取引)となります。

 

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