課税期間における課税売上高が5億円超の場合又は課税売上割合が95%未満である場合は、個別対応方式又は一括比例配分方式により仕入税額の按分計算を行う必要があります。
「課税売上割合」は、課税期間中に国内で行った資産の譲渡等の対価の合計額のうちに課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいいますが、その課税売上割合が事業者における事業内容等の実態が必ずしも反映されていないという場合に対処するために、課税売上割合よりもさらに合理的な割合である「課税売上割合に準ずる割合」を適用して控除対象仕入税額の計算をすることができます。
今回は、「課税売上割合に準ずる割合」としてどのような割合が認められるのか具体的に解説したいと思います。
課税売上割合に準ずる割合の適用範囲
どのような割合が合理的であるかは、その事業者の営む事業の種類等により異なるものと考えられ、その割合を算出することになる基準をどのような外形的要素に依存することが妥当で
あるかについても一概に言えるものではありませんが、課税売上割合に準ずる割合としては、使用人の数又は従事日数の割合、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合な
どが考えられます。
当該割合は、本来の課税売上割合の適用範囲と異なり、その事業者が行う事業の全部について同一の割合を適用する必要はなく、例えば、次のような方法によることもできます。
これらの単位で適用を受ける場合には、一部の事業場について本来の課税売上割合を適用し、他の事業場については合理的な基準による課税売上割合に準ずる割合を適用することもできます。なお、このような場合には、適用すべき課税売上割合に準ずる割合のすべてについて税務署長の承認を受ける必要があります。
なお、課税売上割合に準ずる割合を用いて計算ができるのは、個別対応方式による場合の共通対応の部分だけです。
一括比例配分方式による場合は、課税売上割合に準ずる割合は適用できないので注意しましょう。
課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、納税地を所轄する税務署に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出する必要があります。
適用を受けようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受けておく必要がありますが、承認審査には一定の時間が必要となるため、当該申請書は余裕をもって提出するようにしましょう。
なお、承認に係る課税売上割合に準ずる割合を用いて仕入控除税額を計算することが適当でないと認められる事情が生じた場合には、税務署長は、その承認を取り消すことができることとされています。この承認の取消しがあった場合には、その取消しのあった日の属する課税期間から当該課税売上割合に準ずる割合を用いて仕入控除税額を計算することはできません。
また、課税売上割合に準ずる割合の承認を受けた場合には、本来の課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を適用するのですから、いずれか有利な割合を適用することはできません。
課税売上割合に準ずる割合を用いて計算することをやめようとする場合は、やめようとする課税期間の末日までに当該割合を用いて計算することをやめようとする旨を記載した「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります
課税売上割合に準ずる割合として認められる割合には、次のようなものがあります。
以下、それぞれの内容について詳しく解説します。
従業員割合
国税庁が公表している資料『-平成 23 年6月の消費税法の一部改正関係-「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】』において、次の算式により計算した「従業員割合(従事日数割合を含む。)」が、課税売上割合に準ずる割合として認められるものの具体例として挙げられています。
この割合を適用することができるのは、共通対応課税仕入れ等の税額のうち、従業員数に比例して支出されると認められるものだけです。
例えば、共通対応となる商品仕入高や倉庫家賃、固定資産の購入金額など、その支出が従業員数と比例しないものについては通常の課税売上割合を用いて計算します。
「従業員割合」を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、承認申請に当たり次の点に注意しましょう。
業務ごとに区分できることが前提
従業員割合を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、従業員数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分 できることが前提となります。
課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の双方の業務に従事する従業員がいる場合には、「課税資産の譲渡等にのみ従事する従業員数」を、「総従業員数-非課税資産の譲渡等のみ従事する従業員数」という方法で把握することは認められません。
共通業務に従事する従業員数は分母にも分子にも含めない
課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の双方の業務に従事する従業員については、原則としてこの割合の計算上、分母、分子のいずれにも含めません。
ただし、事務日報等により課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の双方の業務に従事する従業員全員の従事日数が記録されていて、この記録により従業員ごとの従事日数の割合が計算できる場合には、当該従事日数の割合により当該従業員数を各業務にあん分することは認められます。
国外の従業員は分母にも分子にも含めない
例えば、建設会社の海外工事部門の従業員など、国外取引にのみ従事する従業員については、この割合の計算上、分母、分子のいずれにも含めません。
従業員やアルバイトも従業員に含めて取り扱う
この割合の計算上、法人の役員も従業員に含めて取り扱います。ただし、非常勤役員は除きます。
また、アルバイト等についても、従業員と同等の勤務状況にある場合には、従業員に含めて取り扱います。
課税期間の末日の現況の従業員数による
計算の基礎となる従業員数は、原則として 課税期間の末日の現況によります。
課税期間の末日における従業員数が課税期間における実態と異なるなど、事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。
事業部門ごとに適用できる
本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの従業員割合を適用することは認められます。
事業部門ごとの割合
次の算式により計算した「事業部門ごとに通常の課税売上割合と同様の方法により求めた割合」を課税売上割合に準ずる割合として認められます。
この割合を適用することができるのは、課税売上割合に準ずる割合の承認を受けた事業部門の共通対応分に係る消費税額についてだけです。
「事業部門ごとに通常の課税売上割合と同様の方法により求めた割合」を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、承認申請に当たり次の点に注意しましょう。
事業部門ごとに求める
この割合は、事業部門ごと(本店・支店ごとによる場合を含みます。)に、当該事業部門に係る課税売上高と非課税売上高を基礎として、課税売上割合と同様の方法により割合を求めます。
独立した会計単位の場合のみ認められる
この割合は、独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門についてのみ適用が認められるものです。
支店を設けている場合の本支店会計の経理処理方法には、「本店集中会計制度」と「支店独立会計制度」の2種類がありますが、この割合の適用を受けようとするためには「支店独立会計制度」を採用する必要があります。
総務、経理部門等のみ認められる
総務、経理部門等の事業を行う部門以外の部門については、この割合の適用は認められません。
総務、経理部門等の共通対応税額を振り分けることもできる
総務、経理部門等の共通対応分の消費税額全てを各事業部門の従業員数比率等適宜の比率により事業部門に振り分けた上で、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合によりあん分する方法も認められます。
本来の課税売上割合との有利 選択はできない
課税売上割合に準ずる割合が、本来の課税売上割合よりも低いこととなる場合であっても、その承認を受けた事業部門における課税売上割合に準ずる割合を使用します。
床面積割合
次の算式により計算した「床面積割合」を課税売上割合に準ずる割合として認められます。
この割合を適用することができるのは、共通対応分のうち、専用床面積に比例して支出されると認められるものについてだけです。
例えば、課税資産である製品と非課税資産である製品を保管する倉庫の家賃などについては、この割合を適用することができます。
「床面積割合」を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、承認申請に当たり次の点に注意しましょう。
業務ごとに区分できることが前提
床面積割合を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、床面積を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分できることが前提となります。
課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の双方の業務で使用する床面積がある場合には、「課税資産の譲渡等に係る業務で使用する専用床面積」を、「総床面積-非課税資産の譲渡に係る業務で使用する専用床面積」という方法で把握することは認められません。
共通業務で使用する専用床面積は分母と分子にも含めない
課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の双方の業務で使用する専用床面積については、原則としてこの割合の計算上、分母、分子のいずれにも含めません。
課税期間の末日の現況の従業員数による
計算の基礎となる床面積は、原則として 課税期間の末日の現況によります。
課税期間の末日における床面積が課税期間における実態と異なるなど、事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。
事業部門ごとに適用できる
本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの床面積割合を適用することは認められます。
取引件数割合
次の算式により計算した「取引件数割合」を課税売上割合に準ずる割合として認められます。
この割合を適用することができるのは、取引件数に比例して支出されると認められるものについて適用できます。
例えば、当社負担の振込手数料などについては、この割合を適用することができます。
「取引件数割合」を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、承認申請に当たり次の点に注意しましょう。
業務ごとに区分できることが前提
取引件数割合を課税売上割合に準ずる割合として承認申請を受けようとする場合は、取引件数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る件数に区分できることが前提となります。
事業部門ごとに適用できる
取引件数割合は、本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの取引件数割合を適用することは認められます。
通算課税売上割合
普段は土地の売買取引を行わない事業者が、その課税期間だけたまたま土地の譲渡があった場合については「通算課税売上割合」を課税売上割合に準ずる割合として用いることができます。
この方法については、ここで解説すると長くなりすぎてしまうため、詳しくは次の記事で解説しています。