有価証券の購入手数料は、消費税法上課税仕入れとなります。
ただし、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合の有価証券の購入手数料や投資顧問料などの区分は、その有価証券の保有目的に応じてそれぞれ異なるため注意が必要です。
今回は、有価証券の保有目的ごとの購入・売却時の手数料の個別対応方式の区分についてまとめました。
有価証券の区分
企業会計上、有価証券に対する投資活動の成果は「保有目的」によって異なると考えられるため、有価証券は以下の4種類に分類されます。
消費税法上は、有価証券について上記のような分類を行う必要はありませんが、有価証券の購入手数料や投資顧問料などの課税仕入れに係る個別対応方式における区分を考える上では、保有目的に応じてそれぞれ異なる処理を行うこととなります。
売却時の手数料は保有目的に関係なく非課税売上対応
有価証券を売却するためにかかった手数料は、有価証券の保有目的に関係なくすべて非課税取引とされる「有価証券の譲渡」に係る非課税売上げに対応する課税仕入れとなるため、「非課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
(参考)国外に所在する有価証券を売却する場合
国外に所在する有価証券を売却する場合は、消費税法第6条《国内取引の非課税》の規定の適用は受けないことから課税資産の譲渡等に該当します。
したがって、国外に所在する有価証券を売却するためにかかった売却手数料は「課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
国外に所在する資産を譲渡するために要した費用に係る課税仕入れ区分の考え方については、詳しくは以下の記事をご覧ください。
(参考)自己株式の取得の場合
発行法人が自己株式を取得するために行われた有価証券の譲渡にかかる手数料は、不課税取引に係る手数料であるため「共通対応課税仕入れ」に区分されることに注意しましょう。
自己株式の取得があった場合の消費税の取り扱いに、詳しくは次の記事で解説しています。
売買目的有価証券の購入手数料等の区分
「売買目的有価証券」とは、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券のことをいいます。
つまり、「売買目的有価証券」については、短期間で売却する目的で購入するものであるため、その購入手数料や投資顧問料などは「有価証券の譲渡」に係る非課税売上げに対応する課税仕入となるため、「非課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
(参考)国外に所在する有価証券を売却する場合
国外に所在する有価証券を売却する場合は、消費税法第6条《国内取引の非課税》の規定の適用は受けないことから課税資産の譲渡等に該当します。
したがって、国外に所在する有価証券を購入・運用するためにかかった購入手数料や投資顧問料は「課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
国外に所在する資産を譲渡するために要した費用に係る課税仕入れ区分の考え方については、詳しくは次の記事をご覧ください。
満期保有目的債券の購入手数料等の区分
「満期保有目的債券」とは、満期まで所有する意図をもって保有する債券のことをいい、主に国債や社債などが「満期保有目的債券」に該当します。
つまり、「満期保有目的債券」については、他者に売却することを予定せず、利息及び償還差益を得るために購入するものであるため、その購入手数料や投資顧問料などは「利子を対価とする金銭の貸付」に係る非課税売上げに対応する課税仕入となるため、「非課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
(参考)外国債や外国法人の社債の場合
外国債や外国法人が発行する社債に係る利息や償還差益を得る場合は、消費税法第31条《非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定により、これらは免税売上げとみなされます。
したがって、外国債や非居住者である外国法人が発行する社債を購入・運用するためにかかった購入手数料や投資顧問料は「課税売上対応課税仕入れ」に区分されます。
非課税資産の輸出を行った場合の消費税法上の取扱いについては、詳しくは次の記事をご覧ください。
子会社株式・関連会社株式・その他有価証券の購入手数料等の区分
子会社株式・関連会社株式・その他有価証券については、売却することや利息などを得ることを目的に保有するものではなく、業務提携や子会社化などの組織再編成などのために保有するものであるため、その購入手数料や投資顧問料については、明確に対応する売上げがありません。
したがって、子会社株式・関連会社株式・その他有価証券を購入・運用するためにかかった購入手数料や投資顧問料は、目的が投資ではなく株式保有を通じた関係維持にあることが明らかであれば「共通対応課税仕入れ」に区分されます。
この場合、業務提携の事情や状況等について契約書や公表資料等で明確にしておくなど、後日検証可能な状態にしておく事が重要となります。
有価証券は、業務提携や子会社化などの組織再編成などのために保有するものであっても、盛者必衰、諸行無常、最終的にいつかは売却することになるものなので、上記のように検証可能な状態にしていない場合は、税務調査において「非課税売上対応でしょ!」と否認されてしまうおそれがあるため注意しましょう。
まとめ
有価証券の売却・購入時の手数料等についての課税仕入れの区分をまとめると、次のようになります。
(参考)質疑応答事例
国税庁が公表している質疑応答事例においても、この記事と同趣旨の回答が示されています。
【照会要旨】
当社は、1資本提携を強化するために国内子法人であるA社の株式を取得したほか、2国内法人B社と業務提携を行うために同社の株式を取得しました。1及び2の際、仲介業者であるC社に株式購入手数料を支払いましたが、その手数料について個別対応方式による仕入税額控除の計算を行う場合、いずれの区分の課税仕入れに該当しますか。
なお、A社株式及びB社株式の取得目的については、当社の有価証券報告書に記載することにより公表を行っています。【回答要旨】
C社に対して支払った株式購入手数料は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分することとなります。(理由)
ご質問のA社株式及びB社株式の取得目的については、貴社の有価証券報告書に記載されているとおり、1資本提携の強化であること、2業務提携を行うためであることから、いずれの場合においても、投資目的(取得した株式を売却することを目的とするもの)ではなく、その株式の保有が目的であることが客観的に明らかとされています。
こうした保有目的の株式に係る購入手数料は、非課税取引である株式の譲渡のための費用として「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することはできず、また、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分されないものであることから、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に区分することとなります。
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