令和2年度税制改正により、居住用賃貸建物の課税仕入れ等が仕入税額控除の対象から除外されることとなりました。
今回は、マンションなどの居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限とはどのようなものなのかについて、詳しく解説したいと思います。
令和2年度税制改正により居住用賃貸建物に係る仕入税額控除は制限されることに
マンションなどの取得費用については、個別対応方式を採用している場合、原則として、住宅の貸付収入(非課税売上げ)に係る課税仕入れであるため、非課税売上対応課税仕入れとして仕入税額控除を行うことはできません。
取得時に課税売上割合が95%以上で全額控除を行っていたとしても、住宅の貸付けを開始して課税売上割合が著しく減少した場合は、著しい変動の調整を受けることになります。
この調整の適用を回避することを防止するために、課税事業者の選択をした場合や新設法人・特定新規設立法人が調整対象固定資産を取得した場合、高額特定資産を取得した場合などにおいて種々の納税義務の免除の特例や簡易課税の適用制限の規定が設けられてきました。
しかし、これらの規定をもってしても、金地金の取得と売却を繰り返して課税売上割合を恣意的に操作するなどして、著しい変動の調整の適用を免れようとする租税回避行為が相次ぎました。
そこで、令和2年度税制改正により、居住用賃貸建物については、そもそも仕入税額控除自体を認めないこととされました。
10 第一項の規定は、事業者が国内において行う別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この項において同じ。)以外の建物(第十二条の四第一項に規定する高額特定資産又は同条第二項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。第三十五条の二において「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
この改正は、令和2年10月1日以後に行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等に適用されます。
ただし、経過措置として、令和2年3月31日までに締結した契約に基づく居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等については適用されません。
居住用賃貸建物の範囲
居住用賃貸建物とは、非課税となる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものをいい、その付属設備を含みます。
「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」というのは、まわりくどい言い方ですが、要するに居住用の建物だと思っておけば大丈夫です。(詳しくは後程解説します。)
高額特定資産
高額特定資産とは、棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その資産の一の取引の単位に係る課税仕入れに係る支払対価の額の110分の100に相当する金額が1,000万円以上となるものをいいます。
高額特定資産については、詳しくは次の記事でも解説しています。
また、他の者との契約に基づき、又はその事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として自ら建設、製作又は製造をした高額特定資産を「自己建設高額特定資産」といいます。
その建設等に要した原材料費及び経費に係る税抜価額(免税事業者の課税期間又は簡易課税の適用を受ける課税期間を除く。)の累計額が1,000万円以上となった場合に高額特定資産に該当することとなります。
調整対象自己建設高額資産
調整対象自己建設高額資産とは、他の者との契約に基づき、又はその事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として自ら建設等をした棚卸資産(相続、合併又は分割により事業を承継した場合に自ら建設等をした場合を含む。)で、その建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額の110分の100に相当する金額が1,000万円以上となったものをいいます。
この累計額の計算には、免税事業者の課税期間又は簡易課税の適用を受ける課税期間において行ったものが含まれており、この点は自己建設高額特定資産の計算と異なるため注意しましょう。
高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産
居住用の建物であっても、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当しない場合は、仕入税額控除の適用を受けることができます。
例えば、取得費が税抜1,000万円未満のアパートなどは、仕入税額控除の適用制限は受けません。
住宅の用に供しないことが明らかな建物の範囲
「住宅の用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、次に掲げるようなものをいいます。
(1) 建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
(2) 旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
住宅の貸付の用に供しないことが明らかな部分がある場合
例えば、1階部分がコンビニなどの店舗になっており、2階以上の階は居住用マンションになっている場合など、住宅の貸付の用に供しないことが明らかな部分がある居住用賃貸建物については、その構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付の用に供しないことが明らかな部分と居住用賃貸建物とに合理的に区分しているときは、その居住用賃貸部分に係る課税仕入れ等の税額についてのみ、仕入税額控除が適用されないことになります。
つまり、事業用の部分については、仕入税額控除を受けることができます。
なお、「合理的に区分している」とは、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合など、その建物の実態に応じた合理的な基準により区分していることをいいます。
個別対応方式を採用している場合は、建物の取得費のうち、合理的な割合で計算した事業用部分の取得費については課税売上対応課税仕入れ等となります。居住用部分の取得費については仕入税額控除は認められません。
居住用賃貸建物に係る資本的支出も対象
「居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額」には、その建物に係る資本的支出に係る課税仕入れ等の税額も含まれます。
「資本的支出」の意義については、消費税の条文や通達には規定がありませんが、基本的には法人税など他の税法と同様に考えます。
「資本的支出」とは、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額をいい、例えば次に掲げるような金額が資本的支出に該当します。
(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
(2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
(3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
(注) 建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
上記に該当する「資本的支出」で、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものは、仕入税額控除の適用はありません。
なお、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額は「資本的支出」ではなく「修繕費」に該当しません。例えば、次に掲げるような金額は「資本的支出」には該当せず、「修繕費」に該当します。
(1) 建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあっては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。
(2) 機械装置の移設(7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額
(3) 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額。ただし、次に掲げる場合のその地盛りに要した費用の額を除く。
イ 土地の取得後直ちに地盛りを行った場合
ロ 土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りを行った場合
ハ 地盤沈下により評価損を計上した土地について地盛りを行った場合
(4) 建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額。ただし、その床上工事等が従来の床面の構造、材質等を改良するものである等明らかに改良工事であると認められる場合のその改良部分に対応する金額を除く。
(5) 現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額
上記のような「修繕費」に該当するものについては、「資本的支出」ではないため居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限規定の適用は受けず、仕入税額控除の適用を受けることができます。
なお、次に掲げる場合のように、建物に係る資本的支出 自体が居住用賃貸建物の課税仕入れ等に該当しない場合には、その資本的支出に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の適用は制限されません。
(1) 建物に係る資本的支出自体が高額特定資産の仕入れ等を行った場合(法第12条の4第1項《高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除の特例》に規定する高額特定資産の仕入れ等を行った場合をいう。)に該当しない場合
(2) 建物に係る資本的支出自体が住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物に係る課税仕入れ等に該当する場合
居住用賃貸建物の判定時期
居住用賃貸建物に該当するかどうかは、課税仕入れを行った日の状況により判定します。
ただし、課税仕入れを行った日の属する課税期間の末日において、住宅の貸付の用に供しないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとすることができます。
自己建設資産である場合は、その建設等に要した費用の累計額が1,000万円以上となり、自己建設高額特定資産の仕入れを行った場合に該当することとなった日において、居住用賃貸建物に該当するかどうかを判定します。
居住用賃貸建物の仕入れを行った場合に該当することとなった日の属する課税期間以後のその建物に係る課税仕入れ等の税額については仕入税額控除の対象となりませんが、その課税期間の前課税期間以前に行われたその建物に係る課税仕入れ等の税額は仕入税額控除の対象となります。
居住用賃貸建物を行った場合でも納税義務の免除の特例を受ける
高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産を取得した場合に、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の適用制限を受けたとしても、高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の適用制限を受けることになります。
居住用賃貸建物を課税賃貸用に転用した場合や譲渡した場合の調整措置
居住用賃貸建物を課税賃貸用に転用した場合や調整期間内に譲渡した場合には、一定の調整措置が設けられています。
詳しくは次の記事で解説しています。
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