現物配当(現物分配)を行った場合の消費税の課税関係

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

会社の株主は、保有する株式数等に応じて、会社が稼いだ利益の配当を受けることができます。

多くの場合、株主への配当は金銭により行われますが、金銭ではなく自社の商品や備品、建物、土地、商品券などの現物の資産をもって配当が行われることがあります。

このような現物による配当を「現物配当」または「現物分配」といいます。

今回は、このような現物配当(現物分配)が行われた場合の消費税の課税関係について解説したいと思います。

 

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課税の対象の4要件

消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。

課税の対象の4要件
① 国内において行うものであること
② 事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行うものであること
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること

これを踏まえて、現物配当(現物分配)が消費税の課税対象取引となるか考えてみましょう。

 

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所定の手続きを踏めば、現物配当(現物分配)は不課税取引

消費税法上、剰余金の配当は株主という地位に基づいて行われるものであるため、課税の対象の4要件の「対価を得て行うものであること」の要件を満たさず、課税の対象外取引(不課税取引)とされています。

金銭による配当だけでなく現物配当(現物分配)についても同様に考えるため、現物配当(現物分配)は対価性のない取引として不課税取引となります。

ただし、このように不課税取引として取り扱われるためには、現物配当を行うための会社法上の所定の手続きをしっかり踏む必要があります。

会社法上、現物配当を行うためには原則として株主総会の特別決議(総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ、その議決権の2/3以上の賛成)が必要となります。

また、配当に関する決議においては、以下の事項を決議し、決議内容を株主総会議事録に記載しておく必要があります。

① 配当財産の種類及び帳簿価額の総額
② 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
③ 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日

さらに、現物配当は会社法上の分配可能額の制限を受けるため、分配可能額を超える現物配当を行うことができません。

これら所定の手続きをしっかり踏んでいれば、現物配当(現物分配)は通常の金銭の配当と同様に、消費税法上不課税取引として扱われます。

 

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手続きに瑕疵がある場合、代物弁済やみなし譲渡として課税対象となる可能性がある

現物配当(現物分配)に関する手続きに瑕疵がある場合は、「代物弁済」や「みなし譲渡」などに該当し、課税の対象取引となってしまう可能性があるため注意しましょう。

金銭で配当すると決議したのに現物配当をした場合

株主総会でいったん金銭による配当を行う旨の決議をしたのに、その後資金繰りの都合等により金銭による配当ができなくなり、代わりに商品や備品などの現物資産をもって配当を行った場合は「代物弁済による資産の譲渡」に該当し、資産の譲渡等に類する行為として消費税の課税対象となります。

「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいい、消費税法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》の規定により、「資産の譲渡等に類する行為」として消費税の課税対象となります。この場合、当該代物弁済により消滅する債務の額に相当する額が課税標準となります。

この場合、株主に対する金銭の支払義務を消滅させる代わりに現物資産を譲渡していることになるため、その金銭により支払うはずだった配当の金額が代物弁済により消滅する債務の額として、現物資産の譲渡対価となります。

この考え方は、以下の記事で解説している役員に対して株主総会決議を経ずに現物給与を支給した場合の考え方と似ています。

また、代物弁済の考え方については、詳しくは次の記事をご覧ください。

そもそも株主総会決議をしていない場合

そもそも株主総会決議をせずに現物配当(現物分配)を行った場合は、「配当」でも「代物弁済」でもなく単なる「贈与」になります。

この場合、資産を贈与する相手(株主)が取締役などの役員に該当する場合は「みなし譲渡」に該当するため、その資産の贈与は事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなされます。

なお、贈与した相手(株主)が取締役や監査役などの会社法上の役員ではなかったとしても、実質的に法人の経営に従事していると認められる者など法人税法上のみなし役員に該当する場合も「みなし譲渡」に該当することになります。この点については、詳しくは以下の記事をご覧ください。

みなし譲渡に該当する場合は、贈与した資産が棚卸資産かどうかにより、以下の金額を課税標準額に算入しなければなりません。

棚卸資産以外の資産の場合:譲渡時の価額(時価)
棚卸資産の場合:仕入価額 または 通常の販売価額×50% のいずれか大きい方

小規模な家族経営の会社や1人会社の場合などは、株主総会決議をせずに現物配当(現物分配)を行ってしまうことがあるかもしれませんが、その場合「みなし譲渡」に該当し消費税の課税対象となってしまうことに注意しましょう。

特別決議でなく普通決議だけで現物配当をしてしまった場合

上述のとおり、現物配当には株主総会の特別決議が必要となります。

しかし、現物配当には特別決議が必要であることを知らずに普通決議だけで現物配当をしてしまった場合は、会社法上、現物配当を行ったものと認められず、上記と同様に単なる「贈与」を行ったものとして取り扱われます。

したがって、役員やみなし役員に対して、特別決議を経ずに資産を現物配当した場合は「みなし譲渡」として課税の対象となることに注意しましょう。

参考
株主に金銭分配請求権(金銭分配請求権とは、現物の代わりに金銭を交付することを会社に要求する権利)が認められる場合には、株主総会の普通決議で現物配当を行うことができます。
また、株主に金銭分配請求権が認められる場合、定款で配当の決定権限を取締役会に委任している会社では取締役会の決議で現物配当が行えます。
このような場合は、特別決議なしで現物配当を行っても「みなし譲渡」には該当しません。

手続きの瑕疵は臨時株主総会で修正

手続きに瑕疵があった場合はすみやかに臨時株主総会を招集して、本来の正しい手順で再度可決するようにしましょう。

 

(参考)現物出資は資産の譲渡等に類する行為に該当するが、現物配当(現物分配)は該当しない

上述のとおり、現物配当(現物分配)は「資産の譲渡等に類する行為」には該当せず、会社法上の手続きをしっかり踏んで配当を行えば不課税取引となります。

一方で、「現物出資」を行った場合は「資産の譲渡等に類する行為」に該当し、消費税の課税対象となるので注意しましょう。

現物出資についての考え方は、詳しくは次の記事で解説しています。

 

(参考)「現物配当」と「現物分配」の違い

「現物配当」という用語は、会社法上の用語で、配当の対象となる資産は会社の財産に限定されています。

一方、「現物分配」は法人税法上の用語で、法人がその株主等に対して、剰余金の配当、利益の配当、さらには自己株式又は出資の取得などの一定の剰余金処分行為について、金銭以外の資産の交付を行うことをいいます。

いずれも課税の対象の4要件の「対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため不課税取引となります。

 

(参考)法人税法の考え方との違い

法人税法においては、現物分配は資産の譲渡とみなし、現物分配法人と被現物分配法人との間に完全支配関係がない場合(非適格現物分配)は、交付資産を時価で譲渡したものとして現物分配法人は譲渡損益を認識しなければなりません。(現物分配法人と被現物分配法人との間に完全支配関係がある場合(適格現物分配)は、交付資産を簿価で譲渡したものと考えるため譲渡損益は認識されません。)

一方、消費税法においては、現物分配を資産の譲渡とみなして課税する規定はなく、課税の対象の4要件の「対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため不課税取引となります。

 

まとめ

現物配当(現物分配)は対価性のない取引として不課税取引となります。

ただし、手続きに瑕疵がある場合は「代物弁済」や「みなし譲渡」に該当し課税対象となるおそれがあるため注意しましょう。

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