消費税法において、資産の譲渡等の時期(資産の譲渡・貸付け及び役務の提供がいつ行われたのか)については取引ごとに種々の規定が設けられています。
消費税の課税売上げや課税仕入れを計上するタイミングは、企業会計上の費用や収益を計上するタイミングと異なることが多々あるため、資産の譲渡等の時期についての判断を誤ると納税額の計算にも誤りが生じるため、税務調査でも指摘を受けやすいところになります。
そこで今回は、消費税法における資産の譲渡等の時期(原則)についてまとめました。
なお、特殊な方式で資産の譲渡等が行われた場合及び資産の譲渡等の時期の特例については、以下の記事で解説しています。
棚卸資産の譲渡等の時期
棚卸資産の譲渡を行った日は、その引渡しのあった日とされます。
棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば、出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等、その棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して棚卸資産の譲渡を行ったこととしている日によります。この場合において、その棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができます。
棚卸資産に係る資産の譲渡等の時期については、詳しくは 次の記事で解説しています。
委託販売による資産の譲渡の時期
棚卸資産の委託販売に係る委託者における資産の譲渡をした日は、その委託品について受託者が譲渡した日とされます。ただし、当該委託品についての売上計算書が売上げの都度作成されている場合において、事業者が継続して当該売上計算書の到着した日を棚卸資産の譲渡をした日としているときは、これを認めることとされています。
なお、受託者が週、旬、月を単位として一括して売上計算書を作成しているときは、「売上げの都度作成されている場合」に該当します。
船荷証券等の譲渡の時期
荷送人が運送品の譲渡について為替手形を振出し、その為替手形を金融機関において割引をする際に船荷証券又は複合運送証券を提供する場合のその提供は、資産の譲渡等には該当しないが、荷受人が船荷証券又は複合運送証券を他に譲渡した場合には、その引渡しの日にその船荷証券又は複合運送証券に係る資産の譲渡が行われたことになります。
なお、寄託者の行う倉荷証券の譲渡は、当該倉荷証券に係る資産の譲渡に該当します。
請負による資産の譲渡等の時期
請負による資産の譲渡等の時期は、原則として、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日となります。
建設工事等
請負契約の内容が建設、造船その他これらに類する工事(以下「建設工事等」という。)を行うことを目的とするものであるときは、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等、その建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して資産の譲渡等を行ったこととしている日によることとされいます。
ただし、事業者が請負った建設工事等(消費税法第17条第1項若しくは第2項《工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例》の規定の適用を受けるものを除く。)について次に掲げるような事実がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その課税期間において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事代金に係る資産の譲渡等の時期については、その引渡しを行った日とされます(部分完成基準による資産の譲渡等の時期の特例)。
なお、事業者が請負った建設工事等に係る工事代金につき資材の値上り等に応じて一定の値増金を収入することが契約において定められている場合には、その収入すべき値増金の額はその建設工事等の引渡しの日の属する課税期間の課税標準額に算入しますが、相手方との協議によりその収入すべきことが確定する値増金については、その収入すべき金額が確定した日の属する課税期間の課税標準額に算入します。
建設工事等により「未成工事支出金」や「建設仮勘定」を計上した場合の資産の譲渡等の時期と具体的な仕訳例については、次の記事をご覧ください。
機械設備の販売に伴う据付工事による資産の譲渡等の時期の特例
事業者が機械設備等の販売(消費税法第17条第1項若しくは第2項《工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例》の規定の適用を受けるものを除く。)をしたことに伴いその据付工事を行った場合において、その据付工事が相当の規模のものであり、その据付工事に係る対価の額を契約その他に基づいて合理的に区分することができるときは、機械設備等に係る販売代金の額と据付工事に係る対価の額とを区分して、それぞれにつき資産の譲渡等を行ったものとすることができます。
事業者がこの取扱いによらない場合には、据付工事に係る対価の額を含む全体の販売代金の額を対価とする資産の譲渡となり、その資産の譲渡等の時期はその引渡しのあった日とされます。
不動産の仲介あっせんに係る資産の譲渡等の時期
土地、建物等の売買、交換又は賃貸借(以下「売買等」という。)の仲介又はあっせんに係る資産の譲渡等の時期は、原則としてその売買等に係る契約の効力が発生した日とされます。ただし、事業者が売買又は交換の仲介又はあっせんに係る資産の譲渡等の時期を継続してその契約に係る取引の完了した日(同日前に実際に収受した金額があるときは、その金額を収受した日)としているときは、その日とすることができます。
技術役務の提供に係る資産の譲渡等の時期
設計、作業の指揮監督、技術指導その他の技術に係る役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、原則として、その約した役務の全部の提供を完了した日となりますが、その技術に係る役務の提供について次に掲げるような事実がある場合には、その支払を受けるべき報酬の額が確定した日にその確定した金額に係る役務の提供が行われたこととなります。ただし、その支払を受けることが確定した金額のうち役務の全部の提供が完了するまで又は1年を超える相当の期間が経過するまで支払を受けることができないこととされている部分については、その完了する日とその支払を受ける日とのいずれか早い日を資産の譲渡等の時期とすることができます。
(1) 報酬の額が現地に派遣する技術者等の数及び滞在期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合
(2) 例えば、基本設計に係る報酬の額と部分設計に係る報酬の額が区分されている場合のように、報酬の額が作業の段階ごとに区分され、かつ、それぞれの段階の作業が完了する都度その金額を確定させて支払を受けることとなっている場合
なお、技術に係る役務の提供についての契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日清算して剰余金があれば返還することとなっているものを除き、その収受した日の属する課税期間において行った役務の提供に係るものとすることができます。
運送収入に係る資産の譲渡等の時期
運送業における運送収入に係る資産の譲渡等の時期は、原則としてその運送に係る役務の提供を完了した日となります。ただし、事業者が運送契約の種類、性質、内容等に応じ、例えば次に掲げるような方法のうちその運送収入に係る資産の譲渡等の時期として合理的であると認められるものにより継続してその資産の譲渡等を行っているとしている場合には、その日とすることができます。
イ 乗車券、乗船券、搭乗券等を発売した日(自動販売機によるものについては、その集金をした時)にその発売に係る運送収入を対価とする資産の譲渡等を行ったものとする方法(発売日基準)
ロ 船舶、航空機等が積地を出発した日にその船舶、航空機等に積載した貨物又は乗客に係る運送収入を対価とする資産の譲渡等を行ったものとする方法(積切出帆基準)
ハ 一航海(船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの航海をいう。)に通常要する期間がおおむね4月以内である場合においてその一航海を完了した日にその一航海に係る運送収入を対価とする資産の譲渡等を行ったものとする方法(航海完了基準)
ニ 一の運送に通常要する期間又は運送を約した期間の経過に応じて日割又は月割等により一定の日にその運送収入を対価とする資産の譲渡等を行ったものとする方法(発生日(月)基準)
なお、運送業を営む2以上の事業者が運賃の交互計算又は共同計算を行っている場合における当該交互計算又は共同計算により当該2以上の事業者が配分を受けるべき収益の額を対価とする資産の譲渡等については、その配分額が確定した日に資産の譲渡等を行ったものとすることができます。
また、海上運送事業を営む事業者が船舶による運送に関連して受払する滞船料又は早出料を対価とする資産の譲渡等については、その額が確定した日に資産の譲渡等又は売上げに係る対価の返還等を行ったものとすることができます。
固定資産の譲渡の時期
固定資産の譲渡の時期は、原則として、その引渡しがあった日となります。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者がその固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、その日とすることができます。
固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、記事冒頭で説明したの棚卸資産の引渡しの日の例によります。
農地の譲渡の時期の特例
農地の譲渡があった場合において、当該農地の譲渡に関する契約が農地法上の許可を受けなければその効力を生じないものであるため、事業者がその譲渡の時期をその許可のあった日としているときは、これを認めることとされています。
なお、事業者が農地の取得に関する契約を締結した場合において、農地法上の許可を受ける前に当該契約に基づく契約上の権利を他に譲渡したときにおけるその譲渡の時期については、その引渡しがあった日となります。この場合において、当該権利の譲渡に関する契約において農地法上の許可を受けることを当該契約の効力発生の条件とする旨の定めがあったとしても、当該定めは、当該許可を受けることができないことを契約解除の条件とする旨の定めであるものとして、事業者がその農地の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認めることとされています。
工業所有権等の譲渡等の時期
工業所有権等(特許権、実用新案権、意匠権、商標権又は回路配置利用権並びにこれらの権利に係る出願権及び実施権をいう。)の譲渡又は実施権の設定については、その譲渡又は設定に関する契約の効力発生日に行われたものとされます。ただし、その譲渡又は設定に関する契約の効力が登録により生ずることとなっている場合で、事業者がその登録日によっているときは、これを認めることとされています。
なお、実施権の設定による資産の譲渡等に関して受ける対価の額は、それが使用料等に充当されることとされている場合であっても、前受金等として繰延べることはできないことに注意しましょう。
ノウハウの頭金等に係る資産の譲渡等の時期
ノウハウの設定契約に際して支払を受ける一時金又は頭金を対価とする資産の譲渡等の時期は、そのノウハウの開示を完了した日となります。ただし、ノウハウの開示が2回以上にわたって分割して行われ、かつ、その一時金又は頭金の支払がほぼこれに見合って分割して行われることとなっている場合には、その開示をした日に資産の譲渡等があったものとなります。
その一時金又は頭金の額がノウハウの開示のために現地に派遣する技術者等の数及び滞在期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合には、その支払を受けるべき金額が確定する都度資産の譲渡等が行われたものとされます。
また、ノウハウの設定契約に際して支払を受ける一時金又は頭金については、前受金等として繰延べることはできないことに注意しましょう。
有価証券の譲渡の時期
有価証券及び消費税法施行令第9条第1項第2号及び第4号《有価証券に類するものの範囲等》に規定する有価証券に類するもののうち証券又は証書が発行されているものの譲渡の時期は、原則として、その引渡しがあった日となります。ただし、事業者が金融商品取引法第161条の2第1項《信用取引等における金銭の預託》の規定による信用取引又は発行日取引の方法により株式の売付けを行った場合におけるその売付けに係る株式の譲渡の時期は、その売付けに係る取引の決済を行った日となります。
ただし、法人が有価証券(法人税法第2条第21号《定義》に規定する有価証券をいう。)を譲渡した場合の資産の譲渡の時期について、法法第61条の2第1項《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する「その譲渡に係る契約をした日」としている場合には、これを認めることとされています。
株券の発行がない株式等の譲渡の時期
消費税法施行令第9条第1項第1号及び第3号《有価証券に類するものの範囲等》に規定する有価証券に類するものの譲渡の時期は、証券の代用物が発行されている場合はその引渡しがあった日、証券の代用物が発行されていない場合は譲渡の意思表示があった日とされます。
登録国債の譲渡の時期
消費税法施行令第1条第2項第3号《登録国債》に規定する登録国債の譲渡の時期は、名義変更の登録に必要な書類の引渡し等があった日とすされます。
持分会社の社員の持分等の譲渡の時期
合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他これらに類する法人(人格のない社団等、匿名組合及び民法上の組合を含む。)の出資者の持分(証券が発行されていないものに限る。)の譲渡の時期は、譲渡の意思表示があった日とされます。
株式の信用取引等をした場合の譲渡の時期
事業者が金融商品取引法第161条の2第1項《信用取引等における金銭の預託》の規定による信用取引又は発行日取引の方法により株式の売付けを行った場合におけるその売付けに係る株式の譲渡の時期は、当該売付けに係る取引の決済を行った日とされます。
貸付金利子等を対価とする資産の譲渡等の時期
貸付金、預金、貯金又は有価証券(以下「貸付金等」という。)から生ずる利子の額は、その利子の計算期間の経過に応じ当該課税期間に係る金額が当該課税期間の資産の譲渡等の対価の額とされます。ただし、主として金融及び保険業を営む事業者以外の事業者が、その有する貸付金等(当該事業者が金融及び保険業を兼業する場合には、当該金融及び保険業に係るものを除く。)から生ずる利子で、その支払期日が1年以内の一定の期間ごとに到来するものの額につき、継続してその支払期日の属する課税期間の資産の譲渡等の対価の額としている場合には、これを認める。
償還差益を対価とする資産の譲渡等の時期
消費税法施行令第10条第3項第6号《償還差益を対価とする資産の貸付け》に規定する償還差益を対価とする国債等の取得に係る資産の譲渡等の時期は、同号に規定する国債等の償還が行われた日とされます。ただし、当該国債等が、法人税法施行令第139条の2第1項《償還有価証券の調整差益又は調整差益の益金又は損金算入》に規定する償還有価証券に該当する場合において、法人が消費税の計算上も同項の調整差益の額を各事業年度の償還差益の額としているときには、これを認めることとされています。
この点については、詳しくは 次の記事をご覧ください。
賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)を対価とする資産の譲渡等の時期は、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日とされます。ただし、当該契約について係争(使用料等の額の増減に関するものを除く。)があるためその支払を受けるべき使用料等の額が確定せず、当該課税期間においてその支払を受けていないときは、相手方が供託したかどうかにかかわらず、その係争が解決して当該使用料等の額が確定しその支払を受けることとなる日とすることができるものとされています。
使用料等の額の増減に関して係争がある場合には本文の取扱いによりますが、この場合には、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積るものとします。
この論点については、次の記事でもそれぞれ解説しています。
工業所有権等の使用料を対価とする資産の譲渡等の時期
工業所有権等又はノウハウを他の者に使用させたことにより支払を受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡等の時期は、その額が確定した日とされます。ただし、事業者が継続して契約により当該使用料の額の支払を受けることとなっている日としている場合には、これを認めることとされています。
資産の譲渡等の時期の別段の定め
資産の譲渡等の時期について、所得税又は法人税の課税所得金額の計算における総収入金額又は益金の額に算入すべき時期に関し、別に定めがある場合には、それによることができるものとされます。